当記事では、仮想通貨のステーブルコインについて投資の視点からまとめています。
仮想通貨のステーブルコインとは
大手銀行も参入するステーブルコイン
2019年2月14日にJPモルガンがブロックチェーン技術に基づく独自の通貨を発表したことで、今一度注目を集めたステーブルコインという概念があります。仮想通貨ユーザーの間では、Tether社の発行するUSDTはじめいくつかのステーブルコインがすでに流通しており、またMUFGやみずほ他国内ベンチャーも、すでに独自のコイン発行の計画を発表しています。(厳密にいうと、日本の資金決済法上では仮想通貨には分類されませんが、一旦その議論は置いておきます)
ステーブルコインの定義
ステーブルコインとは何か?を簡潔にいうと、他のなんらかの原資産価値に固定(Peg)されており、価値が安定(Stable)したものと言えます。また、現在議論されている多くは法定通貨(ドルや円)へのPegですが、ビットコインや金、石油とのPegも概念的には極めて近しいものと考えています。スピードの速い業界ですので、技術革新やマーケットの広がり、法規制の考え方を考える上では、広い視野で見ていくくらいが丁度いいのではと考えています。
ステーブルコインの利点
ブロックチェーンの技術を用いたステーブルコインの利点としては、
既存の決済ネットワークと比較すると、非中央集権的な体制が作れること、それに関係して透明性が確保しやすいこと、スマートコントラクトの活用などがあろうかと思います。
ただし、どうしても法定通貨とのつなぎ目にはトラストが必要となることから、ビットコイン等と比較すると、基本的にはかなり中央集権寄りの存在になります。
ステーブルコインはどのように成り立つのか
担保の信用からなる
ステーブルコインの構造としてもっとも重要な要素は「担保」です。原資産に対する価値が安定するために必要な担保が十分あるか、が現状もっともそのステーブルコインの安定性を分けています。
例えば、オタクがその辺の葉っぱを100枚集めてきて、1枚1ドルのステーブルコインと言い張ったとします。1枚1ドルでオタクが交換するから、みんな使ってって。
えっ、いいの???
トランプマジギレでは???
ルール的にはさておき、そう仮定します。すると、基本的にはみんな相手にしませんね。それは、オタクが100枚の葉っぱを変換するだけのドルを保管してる保証がないので、誰も信用しないからです。
100ドルくらいは持っとるわ!
実際にはそうなのかもしれないけれど、それを常に信じてもらうのはなかなか難しいです。いつでも堅固に保管した法定通貨に変換できる体制、流動性、それを将来的にも信じてもらえるものが揃っていないと、担保としては機能しません。早い話、オタク自身や仕組みの信用がないと機能しません。
もしも黒塗りの人たちが…
現金を集めたオタクを、横須賀の倉庫に囲ってしまえば…
ヒィィ…
お金ならあげますから助けて…
ステーブルコインの種類
上記の担保という概念から、ステーブルコインは以下の3つに分類できると言えます。
- 法定通貨担保型
- 仮想通貨担保型
- その他(無担保型等)
法定通貨担保型は先ほどの例の通り、どうしても担保の法定通貨をどこかに保管や供託しないといけないので、トラストの部分が残ると考えられます。
一方、仮想通貨担保型はスマートコントラクトの活用で、トラストの部分は極少化することが可能かと思います。ただし担保となる仮想通貨の価値変動自体が大きいのが難点です。
担保のETHはネットワーク上に預けてあるから、ワイを襲っても無駄やで!
もしもし大口さん??
ちょっと担保のETHを上下に振りまくってくれる??
誰も使わんようになるから。
ヒィィ…
イジメのためにETHを動かすのやめて。
この記事では、まずは法定通貨担保型を中心にまとめていきます。仮想通貨担保型はまた別の機会にまとめたいと思います。
通貨危機は起きるのか?
アジア通貨危機とは
ここからはタイトルの通り、投資の観点でステーブルコインを見ていきたいと思います。ステーブルコインが固定相場制であるということから、連想される「アジア通貨危機」について紹介します。
アジア通貨危機についてはこちらのレポートがわかりやすかったので引用します。
Q.アジア通貨危機とは何ですか?
A.1997年7⽉、タイを初めとし、インドネシア、韓国など のアジア各国の通貨下落によって引き起こされた⾦融 危機です。
1990年代には多くのアジアの国々が⾃国通貨と⽶ドルの為替レートを固定するドルペッグ制を採⽤していました。 当時、急成⻑を遂げていたアジア各国に、先進国からの資本流⼊や⽶ドル安による輸出の好調が加わり、アジ ア各国のさらなる成⻑を後押ししていました。 しかし、1995年以降、⽶国が「強いドル政策」に転じたことに連動して、アジア各国の通貨は上昇し始め、輸出 は伸び悩み、多くの国で経常収⽀は⾚字基調で推移しました。そうした中、アジア各国の持続的な成⻑に対する疑問に着⽬したヘッジファンドなどが、通貨の下落を⾒込み、「通貨の空売り」を仕掛けました。通貨の⼤幅な 下落に⾒舞われたアジア各国は、ドルペッグ制を維持できるほどの外貨準備⾼を持っていなかったため、通貨はさらに下落し、ドルペッグ制の放棄を余儀なくされました。また、外国資本が急速に流出したこともあり、アジア各国 は深刻な経済危機に陥りました。「通貨の空売り」は、まずタイ・バーツが標的にされ、その後、アジア各国に広 がっていきました。 こうした「アジア通貨危機」を経て、アジア各国は現在、外貨準備⾼を積み上げているほか、外貨を融通し合い、 危機を防ぐ仕組み「チェンマイ・イニシアティブ」といったアジア地域内の⾦融協⼒体制が構築されています。
(三井住友アセットマネジメントより引用)
国際金融のトリレンマ
通貨危機を考える上で有名な概念として、国際金融のトリレンマという説があります。
国際金融のトリレンマ(こくさいきんゆうのトリレンマ 英:Impossible trinity、あるいはThe trilemma)とは国際金融政策において、3つの政策を同時に実現することができないことを指す。マンデルフレミングモデルを拡張させたものであり、ロバート・マンデルによって提示された説である。不可能の三角形とも呼ばれる。
以下の3つの政策は同時に実現することができず、同時に2つしか実現できない 。
自由な資本移動
為替相場の安定(固定相場制)
独立した金融政策国際金融のトリレンマの理論的背景には「マンデルフレミングモデル」がある。
(Wikipediaより引用)
…いつからわかると錯覚していた?
はい。
言いたかったのは、ここでも起こったのはさっきと同じ構造に起因しているということです。
同じ構造って、オタクの信用がないって話?
基本的にはそうです。
上記のケースだと、各アジアの国家はドルとのペッグ通貨を流通させながら十分な外貨準備高(要はドル)を保有していませんでした。その上で独立した金融政策を行なっていた=ペッグ通貨の枚数をコントロールしていたということになります。
かっこよくいうと国際金融のトリレンマの三つを実現させようとして無理があったということです。単純にいうと、さっきのオタクみたいに十分なドルが持続的に確保できない中、めちゃくちゃ売り込まれました。
売り込まれたらどうすんの?
手持ちのドルを売って自国通貨を買い上げるしかないんだけど、ドル持ってないし。ヘッジファンド相手にはどうあっても勝てないっていうんで、固定相場制を放棄しました(暴落)
ポイントは、保有担保で発行枚数をカバーできるか
我、ヘッジファンド…
全てのステーブルコインを崩壊させるものなり…
ウゴゴゴゴ…
ふふふ…
闇の力で消し去ってあげるわ…
っていうわけもいきません。
というのは、上記の通り通貨危機が起きたのは、金融政策のため発行枚数をコントロールするので、「保有する担保(外貨準備のドル)以上に自国のステーブルコイン(Peg通貨)を発行してた」からです。ドルしっかり持ってて、みんながそれを信じてればそうそう崩れません。
…売り壊せないの???
ちゃんと担保と変換できるならね。
(市場によっては、一時的に乖離するかもだけど)
ポイントとなるのは、「保有担保より発行枚数があるとまずい」という点です(いざ請求された時に支払えなくなるため)。これは信用創造という金融キーワードと密接に関連するので、興味がある方は調べてください。
このように、発行者が政府であれ個人であれ、介入方式であれIOU方式であれ、原則的には同じ「信用力」の話になると考えられます。国であれば国債、会社であれば社債同様、十分な支払い能力を保ち続けると「持つ人が信じられるかどうか」がポイントです。
そこには、ヘッジファンドの急なデリバティブショートへの対策や物理的な貯蔵方法や法規制など、様々な要素が絡んできます。既存の金融業の考え方では、国への供託金を納める形で信用力の補完を行うのが一般的かと思います。
結局のところ、オタクを信じるか、Tetherを信じるか、JPモルガンを信じるか、国を信じるか…みたいな話。
わからんでTether使ってたのやばいな。
オタクの葉っぱ買ってたのかよ。
ひどい言われよう。
Tetherも勿論、監査をつけているけれど、それでも信用問題になっているのは過去のチャートからわかる通りです。
基本的には、原資産となる法定通貨よりも信用力が劣る構造となった場合、その分価値は低下(または信用分だけ金利がつく)という関係になります。仮に100%担保があったとしてもそれが将来、持続的にあるものと投資家が考えるかどうかが論点になります。(外形的な信用)
外形的な信用?
またわからんワードで煙に巻いてるな!?
外から見て信じられるのか?と言う意味での信用力を指します。
例えばTether社の発行するUSDTだって、基本的にはドルに変換が可能と言う触れ込みで運営しているけれども、監査法人も含めて疑惑がかかり、実際には一時的とはいえ大きな価格差が発生しました。
一方、TUSDなど現在新規に発行されているステーブルコインは、複数の信託銀行にドルを預けるなどして、十分な監査、保管体制を敷いていることをアピールしています。(なお、それでも本来国債などより信用力は劣るはず)
要は社債みたいなもんやな?
チマチマトレード!!
イールドカーブ〜〜〜
スプレッド〜〜〜〜
前置きが長かったけれど、その外形的な信用力や流動性をどう判断するのかが投資家の観点では重要ですね。(トレードチャンス)
確かに債券のトレードに似ています。金利勝負になるし、ユーザーや法律によって局所的な流動性と需要供給も違う。
また、「担保の仕組みや質をみる」と言う意味では仮想通貨担保型のステーブルコインにも同じことが言えるので、これは別途研究中です。
仮想通貨である価格へのメリット
ここまでかなりネガティブ寄りの話をしてきましたが、ポジティブな側面として仮想通貨ゆえのユーティリティーがあります。ブロックチェーン上の通貨として、他の仮想通貨との取引ができるというメリットは現状USDT等のステーブルコインには事実として存在します。それは局所的に法定通貨より流動性が優っていることから、需要を生んでいる(理論的には価値にプラス)と考えられます。
信用力は劣るかもけど便利…
おじさん的にはネットバンクが流行った流れを彷彿とさせる動き。あれは円だけど。
この場合は、信用力分だけ価値にはマイナスに働くけど、ユーティリティー分だけプラスに働くってことね。
まとめ
- ステーブルコインは他の資産価値に固定されており、価値が安定したもの
- 価値の安定には、担保とその信用力がポイント
- 外形的な信用力は、担保そのもの以上にユーザーが発行体をどう評価するかで決まる
- 信用力に流動性も加味し、需要供給をみてトレードチャンスを考えるべき
長くなったけど、読んでくれてありがとうございました。
感想いただけると嬉しいです。
コメント
いつも勉強になります。恐れ入りますが、源→原資産かと思います。これからも記事楽しみにしております。
と さん
ありがとうございます!直しました!!